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2017年8月21日5 分

シンポジウム報告

最終更新: 2020年6月9日

19日土曜日に行われた、シンポジウム「なぜアメリカに建つのか?日本軍”慰安婦”メモリアル」のご報告です。当日、開催時刻に合わせたかのようにゲリラ豪雨の叩きつける中、約60名の参加者にお集まりいただきました。

 日本軍「慰安婦」問題を記憶し、継承するためのメモリアル(像や碑など)が世界中で建立されています。過去にあった被害を記憶し、現在の人々の手によって、未来の社会へと継承する大切な碑です。重要な碑であるにもかかわらず、日本社会では「バッシング」の対象となっています。特に、アメリカ・カナダで建立されているメモリアルに対しては、だれが建てているのか? 何の目的で建てているのか? などの詳細が伝わらないままに、「反日である」「日本人はいじめられている」などという話だけが一人歩きしている状況です。メモリアルにとどまらず、博物館展示や教科書、学者などもターゲットにされた攻撃も起きています。

 今回は、北米状況に精通している山口智美さん(モンタナ州立大学准教授)、が『日本軍「慰安婦」問題と北米での「歴史戦」』、河庚希さん(明治大学大学院特任講師)から、『サンフランシスコで「慰安婦」を記憶する』と題しお話いただきました。

 山口智美さんは、右派勢力がなぜ「慰安婦」問題の「主戦場」がアメリカだと位置づけたのについて、北米での日本軍「慰安婦」問題の認識のされ方や「慰安婦」問題解決運動の歴史、北米でメモリアルが建立し続けている状況や、それへの右派からの反対運動の現状等を報告しました。

 90年代からアメリカでは「慰安婦」問題の解決に向けた運動が起き、WCCW (Washington Coalition for Comfort Women Issues ) (1992年設立), Asia Policy Point (1991年設立)などが運動を展開していました。初期には日本の右派勢力は北米での動きにそこまで関心を示してはいませんでしたが、2007年(1月提出7月30日可決)のアメリカ下院121号決議(マイク・ホンダ議員提出)が出されたこと、日本の右派知識人らによる「歴史事実委員会」が「慰安婦」問題を否定する内容の”The Facts”広告を出したことなどによりアメリカに注目が集まりました。さらに、ジャーナリストの岡本明子氏による右派論壇誌『正論』2012年5月号の記事により、 「慰安婦」メモリアルの建設のために日本人がいじめられているという説が提示されたなどの要因から、 2012年頃から右派勢力が “アメリカ=主戦場”説を主張するようになりました。その後、第二次安倍政権の時代になり、日本政府も右派勢力と歩調を合わせるかのように、2014年には在ロサンゼルス日本総領事館及び他の大使館・領事館のサイトで歴史認識問題に起因する日本人への「いじめ」情報を募り(いじめ説に関しては現在に至るまで証拠は提示されていません)、 自民党や外務省がアメリカでの解決運動を妨害・阻止するような「対策」をはじめたりするなどしていきました。こうした動きの影響で、メモリアル設置を断念した自治体もありました。その後も右派勢力はいくつかの裁判闘争を開始し、宗教団体とも連携しつつ、在米日本人向けイベントや集会 、 アメリカ人に向けた大学での 「慰安婦」否定映画の上映会を開催したり、在米の学者や政治家への働きかけを行うなどして「運動」を拡大しています。

 これに対して、解決運動を行なっている側も手をこまねいているわけでなく、各地でのメモリアルの建立や国内でのネットワークの強化に加え、国境を超えたトランスナショナルな運動や活動を展開しています。また、「脱植民地化を目指す日米フェミニストネットワーク」(FeND)は、日本や在米日本人の歴史修正主義に関する情報を在米の人たちに向けて英語で発信し始めました。北米で日本軍「慰安婦」問題解決運動に尽力している人々は、「慰安婦」問題だけに関わっているのではなく、様々な社会問題・課題解決を目指し日々運動・活動を行なっている人が大半だと思います。「慰安婦」問題を孤立した問題ではなく、多くのイシューに関連するものと位置付けることで、複数性や多様性が担保され、アイデアも潤沢になっているのが北米の特徴として言えると述べました。

 河庚希さんの報告は、北米での「慰安婦」メモリアル建設を進めている人々を突き動かしている最も大きな原動力は、反日感情やナショナリズムではなく、時間や空間を超えてつながる記憶やトラウマであることを自身の経験や事例をもとに説明。例えば、強制収容を体験した日系アメリカ人、その収容所で性暴力の被害にあった女性、祖母が「慰安婦」にされる可能性があったコリア系アメリカ人、15歳の娘をもつ父親、虐殺の歴史をもつアルメニア系やユダヤ系住民などは、日本軍「慰安婦」の歴史を記憶し続けることが、自らの抱えている傷を癒すだけでなく、新たな被害者を生み出さないために、また、あらゆる性暴力と闘うためにも重要であると考えていることを述べました。

 そして、これまでの活動を通して、日本軍の戦争犯罪だけでなく、米国市民として米軍やアメリカ帝国が犯してきた数々の戦争犯罪(国内・海外ともに)について、しっかりと向き合っていきたいと考える支援者たちが増えてきたことを述べ、日米の帝国主義を連携した一つのシステムとして捉え、解体するために、今後とも、在日朝鮮人としてのユニークな立場や視点を使って、太平洋両岸の連帯強化に貢献したいとの決意で締めくられました。

ー河庚希ー

「北米での「慰安婦」メモリアル建設を進めている人々を突き動かしている最も大きな原動力は、反日感情やナショナリズムではなく、時間や空間を超えてつながる記憶やトラウマである。例えば、強制収容を体験した日系アメリカ人、その収容所で性暴力の被害にあった女性、祖母が「慰安婦」にされる可能性があったコリア系アメリカ人、15歳の娘をもつ父親、虐殺の歴史をもつアルメニア系やユダヤ系住民などは、日本軍「慰安婦」の歴史を記憶し続けることが、自らの抱えている傷を癒すだけでなく、新たな被害者を生み出さないために、また、あらゆる性暴力と闘うためにも重要であると考えている。
 

 

 
これまでの活動を通して、日本軍の戦争犯罪だけでなく、米国市民として米軍やアメリカ帝国が犯してきた数々の戦争犯罪(国内・海外ともに)について、しっかりと向き合っていきたいと考える支援者たちが増えてきた。日米の帝国主義を連携した一つのシステムとして捉え、解体するために、今後とも、在日朝鮮人としてのユニークな立場や視点を使って、太平洋両岸の連帯強化に貢献したい。」

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