2020年に4回連続でおこなった日本軍「慰安婦」問題解決運動史講座の第2期を開催します。第1期では運動の立ち上げから2000年女性国際戦犯法廷までを扱いました。今回は日本軍「慰安婦」問題に対するバックラッシュを取り上げます。1997年頃から「慰安婦」問題に対する右派の攻撃が激しくなり、女性国際戦犯法廷はまさに激しいバックラッシュの中で開催されました。そして法廷後の10年は、「慰安婦」問題にとって最も暗い時代だったように思います。今回の連続講座では、現在に続くバックラッシュを多角的に扱います。是非、ご参加ください。
※第1回目のみ9/25(土)午前開催。第2回~4回は金曜日の午後8時~10時です。
※後日配信があります(約1ヵ月。次回講座までの期間)。
※参加費 学生無料/一般:各回 1000円
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第1回 バックラッシュと右派の「歴史戦」
講師 山口智美さん(モンタナ州立大学教員)
日時 2021年9月25日(土)10:00~12:00
2000年代に男女共同参画をめぐり激しくなったと言われるフェミニズムへのバックラッシュですが、実際には1990年代なかばから活発化しており、それ以来現在に至るまで、日本軍「慰安婦」問題はバックラッシュの中心的な課題であり続けています。この回では、1990年代半ばから現在に至るバックラッシュと、それを先導した右派の運動の展開について振り返ります。また、2012年ごろから「慰安婦」否定論を発信する右派の「歴史戦」が米国など海外を「主戦場」として展開されてきました。この「歴史戦」と、今年に入って話題になった、ハーバード大学教授のJ.マーク・ラムザイヤー氏の論文をめぐる問題との関連についても考えます。
第2回 メディアと教育へのバックラッシュ
講師 池田恵理子さん(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)名誉館長)
日時 2021年10月15日(金)20:00~22:00
1996年12月、「新しい歴史教科書をつくる会」結成。1997年2月には「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(事務局長:安倍晋三)が、そして5月には「日本会議」が発足。河野談話を受けて4年後の1997年に全ての中学歴史教科書に「慰安婦」が記述されたことに焦った右派の運動が本格化したのです。96年までにNHKで「慰安婦」関連番組を8本制作した池田恵理子さんは、97年からは1本も企画が通らなくなったと言います。そして、このような右派の歴史修正主義に対抗する女性たちの運動の中で、2000年女性国際戦犯法廷が企画され準備されていきました。しかし、法廷を扱ったNHKの番組は政治家の圧力により無残に改ざんされました。その過程をジャーナリストとして、法廷を支える活動家として経験した池田恵理子さんにお話を伺います。
第3回 フェミニズムと歴史修正主義~サバイバー証言をめぐって~
講師 金富子(キム・プジャ)さん(東京外国語大学教員)
日時 2021年11月12日(金)20:00~22:00
日本軍「慰安婦」問題は、帝国日本による家父長制と植民地主義の複合的な産物です。このことを土台にサバイバーの証言を疑う歴史修正主義を考察すると、次の2つのパターンがあります。①ミソジニーと植民地主義が結託した歴史修正主義、②家父長制批判(フェミニズム)を装いつつ植民地主義が継続する歴史修正主義です。1997年前後に日本に現れた①は「慰安婦は嘘つき」などと露骨すぎてわかりやすいのに対し、同じ頃に現れた②はフェミニズムを装うためわかりにくいと言えます。しかし、②に関して振り返ると、フェミニズムは植民地主義と結びついてきた歴史があります。今回は、現在にも大きな影響を及ぼしている2つのパターンについて、とくに②にフォーカスして考えてみたいと思います。
第4回 韓国におけるバックラッシュ
講師 金英丸(キム・ヨンファン)さん(民族問題研究所対外協力室長)
日時 2021年12月17日(金)20:00~22:00
昨年の正義連バッシング以来、駐韓日本大使館前の水曜デモの様子が変わりました。新型コロナの感染拡大により大人数の集会ができないこともありますが、毎回、韓国の右翼勢力が周辺でヘイトスピーチを繰り返していることに驚きます。このような勢力は突如として現れたわけではなく、韓国社会に実は根深く存在していました。また、最近放送されたMBC「PD手帳」という番組では、韓国の国家機関が日本の右翼勢力と繋がって日本軍「慰安婦」問題に関わる活動家(尹美香さん)の情報を流し、彼女の日本での活動を妨害させていたというショッキングな内容が報道されました。尹美香前代表をはじめ正義連は、決して韓国の全ての人々、国家機関から守られて活動していたわけではなく、むしろ厳しい状況の中で綱渡りをしていたのだという事実が次々と明らかになっています。その背景と実態についてお話いただきます。
講師プロフィール
山口智美(ヤマグチ・トモミ)
モンタナ州立大学社会学・人類学部教員。専門は文化人類学、フェミニズム、日本研究。日本のフェミニズム運動や、右派運動などの調査研究を行う。共著に『社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(斉藤正美、荻上チキとの共著/勁草書房)、『海を渡る「慰安婦」問題 ――右派の「歴史戦」を問う』(能川元一他との共著/岩波書店)などがある。
池田恵理子(イケダ・エリコ)
1950年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、1973年よりNHKディレクターとして「おはようジャーナル」「ETV特集」などで、女性、人権、戦争、教育、エイズなどの番組を制作。市民としては1997年から映像集団「ビデオ塾」を主宰し、中国・山西省の性暴力被害者の支援活動や、2000年の女性国際戦犯法廷・国際実行委員として開催準備に携わる。2010年にNHKを定年退職後、wamの館長をつとめ、2018年より名誉館長。戦時性暴力関連の共著に、『黄土の村の性暴力~大娘たちの戦争は終わらない』(創土社/2004年)、『ある日本兵の二つの戦場~近藤一の終わらない戦争』(社会評論社/2005)、『日本軍「慰安婦」問題 すべての疑問に答えます。』(合同出版/2013年)、『NHKが危ない!』(あけび書房/2014年)など。ビデオ塾制作の記録映像としては、『アジアの「慰安婦」証言シリーズ』、『沈黙の歴史をやぶって~女性国際戦犯法廷の記録』(2001年)、『大娘たちの戦争は終わらない~中国山西省・黄土の村の性暴力』(2004年)、『大娘たちの闘いは続く~日本軍性暴力パネル展の歩み』(2013年)など。
金富子(キム・プジャ)
東京外国語大学教員。専門はジェンダー論、植民地朝鮮ジェンダー史、植民地期朝鮮の公娼制および現代韓国の性暴力・性搾取研究。2000年女性国際戦犯法廷ではVAWW-NETジャパン・調査チームを担当。現在は、日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会(Fight for Justice)共同代表。単著に『植民地期朝鮮の教育とジェンダー』(世織書房、2005年)、『継続する植民地主義とジェンダー』(同、2011年)、共編著に『Q&A朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任(増補版)』(御茶の水書房、2018年)、『性暴力被害を聴く』(岩波書店、2020年)、共著に『遊廓社会2』(吉川弘文館、2014年)、『植民地遊廓』(同、2018年)、編訳に『記憶で書き直す歴史』(岩波書店、2020年)ほか多数。
金英丸(キム・ヨンファン) 民族問題研究所対外協力室長
1997年、北海道朱鞠内で開かれた強制連行・強制労働犠牲者の遺骨発掘作業(東アジア共同ワークショップ)に参加。2002年-2006年、高知県「平和資料館・草の家」で日本の平和運動を学びながら活動。2006年から2007年までは、靖国反対共同行動日本委員会と韓国委員会で活動。2014年4月から、植民地時代に日本帝国主義に協力した韓国の「親日派」に関する事典である「親日人名事典」の発刊で知られている「民族問題研究所」で靖国問題、強制動員問題など、日本の過去清算に関する問題、日韓市民連帯を主なテーマとして活動。東アジアの人々が国家と民族の壁を乗り越え、平和を実現するために連帯することをめざして活動している。著書(共著) 『南京事件70周年国際シンポジウムの記録―過去と向き合い、東アジアの和解と平和を』(日本評論社、2009年)、『9条しあわせの扉』(高知新聞社、2008年)、『高知・20世紀の戦争と平和』(平和資料館•草の家、2005年)、『続調べる戦争遺跡の事典』(柏書房、2003年) 訳書(共訳) 『日韓の現代史と平和・民主主義に思う』(日本評論社、2013年)、 『フクシマ以後の思想をもとめて』(平凡社、2014年)
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