キボタネ

3月7日4 分

連続講座第3回「不戦兵士の会:元兵士と市民による不戦運動の軌跡と、その先の運動へ」報告

連続講座第3回「不戦兵士の会:元兵士と市民による不戦運動の軌跡と、その先の運動へ」報告

日時:2024年2月11日(日)19:00~21:00

遠藤美幸さん(不戦兵士を語り継ぐ会・共同代表)

 今回の講座では、元兵士の戦場体験の聴きとりを続けてこられた遠藤美幸さんをお招きして、「不戦兵士を語り継ぐ会」(旧・「不戦兵士の会」、1999年に「不戦兵士・市民の会」と改称)の歩みと今後の展望についてお話をうかがいました。キボタネは普段、日本軍「慰安婦」被害者の証言を記憶・継承する活動に重点を置いていますが、不戦・平和を誓った元兵士たちの体験もまた重要な価値をもつことが理解できる有意義な講座となりました。

 敗戦後日本では、元兵士たちが体験を共有する場として無数の戦友会が結成されました。遠藤さんによれば、これらの戦友会にも反戦と平和を希求する人がいたものの、対外的な反戦・平和運動を行うことはありませんでした。それに対し「不戦兵士の会」は、陸海軍・戦域・階級・思想を問わず不戦の旗の下に集結し、精力的に不戦運動を展開しました。その意味で、戦友会とは明らかに異質な性格をもつ元兵士たちのアソシエーションだといいます。

 「不戦兵士の会」は、1988年1月、アジア・太平洋戦争で戦場の生き地獄をみてきた元兵士たちが「戦争だけは二度としてはならない」と固く誓って設立されました。その後、不戦兵士と志を同じくする一般市民も巻き込みながら、1991年には会員300名以上を擁する団体に成長します。設立当初から定期的に開催された講演会「不戦大学」には、政治家や評論家、新聞記者のほか、内海愛子さん、吉見義明さん、池田恵理子さん、そしてキボタネ代表理事の梁澄子さんといった日本軍「慰安婦」問題解決運動に深く関係する方たちも登壇されました。1988年に創刊された機関誌『不戦』は2021年冬の第184号を最後に閉刊となりましたが、最終号の表紙に、近藤一(はじめ)さんの遺志を継ぐ高校生たちの姿を掲載できたことは「私たちの誇り」であると遠藤さんは語ります。近藤一さんは、万愛花さんなど中国・山西省の日本軍性暴力被害者と交流を続け、加害体験の継承を実践した元兵士として有名です。中国戦線での非人間的な行為と沖縄戦での凄惨な被害体験の双方を語る近藤一さんは、不戦兵士の代表のような方だったといいます。

 近年は、コロナ禍による活動休止やメンバーの急逝・病気などで団体の存続が危ぶまれていましたが、遠藤さんと太田直子さん(映像プロデューサー)が共同代表となり、2023年8月に「不戦兵士を語り継ぐ会」として再出発しました。遠藤さんは、戦争が忍び寄る危機的状況だからこそ不戦兵士が遺した言葉や活動の軌跡を世に問うことの意義は大きいと語り、「不戦の火」を消さないことが「語り継ぐ会」のもっとも重要なミッションだといいます。講演の最後には、「小さなタネ」を撒き続けることで「大きな人間」に対抗していこうと呼びかけてくださり、キボタネに集う若者世代にも非常に大きな励みになりました。

 特に印象に残ったのは、機関誌『不戦』の創刊号(1988年2月)に初代代表理事の大石嗣郎さんが書き残した次の言葉です。「日本の行き着く路線が見方によっては戦前以上に多くの危険を孕んでおり、再び自らの選択によって国民の意志に逆らって進もうとしています。聞くところによると、若き世代の中には、この憂うべき動きにはまったく無関心と無頓着も甚だしいとのことです」。 30年以上の時を経たいま、日ごとに状況は悪化するばかりで、大石さんの言葉が重みを増して私たちに迫ってきます。歴史修正主義/歴史否定論による政治・メディア・教育の劣化は止まるところを知らず、軍備増強路線は肥大化するばかりです。戦争の理不尽さ、とりわけ日本帝国主義による加害の歴史を知ろうとする若者はあまりにも少ないといわざるをえません。記憶・継承が軽んじられるところでは、同じ過ちが必ず繰り返されます。不戦兵士たちの願いを胸に留めながら、今後も日本軍「慰安婦」被害者の証言を記憶・継承していく決意を新たにする講座となりました。

(文責:近藤凜太朗)

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