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キボタネ若者PJT2024被害者の証言を読むプロジェクト第1弾「盧満妹さん(台湾)の証言を読む」の報告

キボタネ若者PJT2024被害者の証言を読むプロジェクト

第1弾「盧満妹さん(台湾)の証言を読む」の報告

2024年1月27日~4月20日開催


プロジェクト概要

 キボタネでは日本軍性奴隷制/戦時性暴力被害者を記憶し、その思いと運動を継承するため、各国被害者の証言を読む若者プロジェクト(以下、PJT)を2024年1月より開始しました。これまでも証言を読む企画としては、2018年2月から2021年10月まで通算11回にわたりキボタネ・ワークショップ(以下、WS)を開催してきましたが、今回からは若者PJTとして18~39歳の参加者を募集し、約3ヶ月にわたって、証言を読むだけでなく、証言の背景となる歴史を学んだり、記録映像を観たり、サバイバーを知る方々からお話を聴くなどして理解を深めた上で、最後の回でPJTの活動発表の場として一般参加を募ってPJT参加者がファシリテーターとなる形で証言を読むWSを開催します。また、これまでのキボタネWSでは11名とも朝鮮人サバイバーの方々の証言を読んできましたが、本PJTでは朝鮮のみならず各国の被害者の証言を読んでいきます。その第1弾として今回は台湾の盧満妹さんの証言を読むPJTを2024年1月~4月に実施しました。今後、第2弾は中国、第3弾はフィリピンと各国のサバイバー証言を読んでいく連続シリーズの長期企画となります。


プロジェクトの経過

 PJT第1弾はWS開催に向けて全6回の例会を実施しました。第1回(1月27日)ではオリエンテーションを行い、PJT参加メンバーの自己紹介をした後、キボタネ代表理事の梁澄子さんによる日本軍「慰安婦」問題ベーシック講座を行いました。まず基本的な用語をめぐる問題や制度的な「慰安所」を含む日本軍の性暴力の実態について資料と証言に基づきご解説いただきました。その上で運動前夜から、運動が始まり、各国へと広がっていく運動の歴史を振り返るとともに、「慰安所」での長期に及ぶ被害を受けた宋神道さんや金福童さんへの聴き取りの中で示された「精神の自由」の剥奪が物語る被害の深刻さとそのような心的外傷を回復させることが出来ないまま、むしろその声をかき消されながら永い歳月を生き抜いてこられたサバイバーたちへの想像力と傾聴の姿勢の必要性、「聴く力」を持った社会の受け皿の重要性を強調されました。名乗り出た当初、自らの被害を訴えることに精一杯だった被害者たちが、その証言に耳を傾けようとする人々の#with youの輪の中で一歩ずつ被害回復の道のりを歩み、人権活動家・平和活動家として社会を動かす存在へとなっていった闘いの軌跡に併走してこられたご自身の経験から、運動の中でのサバイバーたちの変化を通して感じられた人間の尊厳について語っていただきました。

 第2回(2月4日)では、盧満妹さんが登場する楊家雲監督の映画『阿媽の秘密』(1998年)の一部と吳秀菁監督の映画『蘆葦の歌』(2014年)を視聴して、感想共有を行い、『蘆葦の歌』の中で裁判支援の日本人サポーターとして度々登場する柴洋子さんとの質疑応答も行いました。台湾における日本軍「慰安婦」サバイバーの支援活動を主導してきた台北市婦女救援基金会(以下、婦援会)が2016年末に開館したAMA Museumでボランティアとして活動されていた台湾人の参加者の方からは、戦後の中華民国・国民党政権の言語政策の影響により生じた現代台湾における世代間の言語の壁が、台湾籍「慰安婦」サバイバーと婦援会のスタッフの間にも生じていたことや、台湾先住民族の「慰安婦」サバイバーの民族名が長い間記録されてこなかったことなど、多言語・多重族群社会である台湾におけるエスニシティと言語をめぐる問題について大変示唆的なコメントをいただきました。

 第3回(2月17日)では、盧満妹さんの証言資料を読む会ということで、柴洋子さんが2000年女性国際戦犯法廷のシリーズ本の第3巻に執筆された「台湾・盧満妹阿媽の被害とその後」と題する論考を用いて、2名の大学院生の参加者によるテキストの要約とコメントを付した報告を聴いた後、参加者全員で順番に、資料を読んだ感想や疑問点などを共有しました。次回の勉強会に向けては、盧満妹さんの「慰安婦」動員の背景となった貧困について植民地支配との関わりで知りたいというコメントや、「戦後」台湾における歴史記憶のあり方や「慰安婦」問題に関する国民党と民進党の対応などについて知りたいという声が挙がりました。また、第5回に向けては、最後のWSで用いる一人称証言の作成に関わる事実確認の質問や、柴さんの知る盧満妹さんの人柄や生きざまについてもっとお話を伺いたいという要望が挙がりました。

 第4回(3月3日)では、盧満妹さんの証言の理解を深めるために、その背景としての台湾植民地支配について学ぶ必要があるということで、台湾近現代史・華語圏の映画史を専門とされ、「慰安婦」問題も含めた現代台湾における歴史記憶の問題についても調査・研究されている三澤真美恵さん(日本大学文理学部教授)を講師としてお呼びして勉強会を開催しました。まず盧満妹さんの証言の背景として植民地期台湾の漢民族社会における貧困家庭の女性の多就業の状況と女児取引の旧慣について確認し、盧満妹さんがサトウキビを植える仕事をしていた時に騙されて海南島に連れて行かれたという証言からサトウキビというキーワードに着目して、台湾の1920年代における帝国日本の一大治水事業である「嘉南大圳」建設工事について、「三年輪作方式(稲、甘蔗、雑作)」の強制的実施がいかに台湾現地農民の生活・生業と対立し、日本の大資本である製糖会社や地主を利するものでしかなく、小作農民の経済的逼迫を加速化させたのかを、嘉南大圳反対の抗日農民運動について論述した浅田喬二氏の研究や嘉南大圳水租不納運動のビラ、当時の状況を当事者目線で描いた楊逵の小説「新聞配達夫」などを参照しながらご解説いただきました。次に、盧満妹さんのように台湾の国外へと徴集・連行される被害とは別の形態の被害、すなわち自分たちの住む村の近くに駐屯する日本軍の部隊で被害を受けた台湾先住民女性の証言として、昨年逝去されたイワル・タナハさんの証言を取り上げ、その背景として植民地期台湾少数民族に対するレイシズムと収奪の過程とその果てに先住民族セデックが日本人に対して武装蜂起した霧社事件(1930年)について詳しく見ていき、事件後の警察機関による圧倒的な監視体制と統治の厳しさのゆえに、まさにイワル・タナハさんが「警察官の命令は絶対でした」と語るような状況が生み出されており、そのような日常不断の警察権力の管理統制下で、先住民女性たちの警察官による徴集・連行と日本軍部隊での性暴力被害が引き起こされていたことをご解説いただきました。そして最後に、「戦後」台湾における歴史記憶の問題に関して、1990年代に国民党李登輝政権下で民主化が進展し、1997年に中学校の教科書として『認識台湾』が導入され、初めて台湾に固有の歴史が教えられるようになり、初の政権交代(2000年)が起きるなど、本省人ないし独立を志向する民進党が政治的な力を増していくにつれ、従来の国民党政権や中華ナショナリズムに基づく「大中国史観」と民進党や台湾ナショナリズムに基づく「台湾主体性史観」とが対立する状況が生まれ、国民党寄りのマス・メディアの煽情的な報道により二項対立的な対立構図が強化される中で、2001年の小林よしのりの漫画『新ゴーマニズム宣言 台湾論』中国語版の台湾での発売による大論争を契機に「慰安婦」言説が大幅に二極化されステレオタイプ化され流通していくことになりますが、実際の被害者支援に取り組む婦援会をはじめとする女性たちを中心とする運動に目を向けると、そのような政治的立場やナショナリズムに基づく対立構図には回収されない被害者中心主義による「別様の連帯」が認められることをご指摘されました。

 第5回(3月30日)では、台湾の被害者たちが日本政府を相手取って提訴した裁判の支援活動を通して長年、台湾のサバイバーたちと交流を重ねてこられた柴洋子さんのお話を聴く会を開催しました。最初に1時間ほど柴さんに、事前にご用意していただいたパワポ資料を使って盧満妹さんの写真や映像を見せながらその人となりや暮らしぶりや裁判闘争の歩みを語っていただき、その後、第3回の証言資料を読む会で参加者の皆さんから出ていた質問や運営側でWS用の一人称証言を作成する過程で生じた疑問などを集めて整理した質問リストに基づいて、プレゼンの中で漏れた質問をさらに掘り下げるという形で、柴さんを囲んで大変充実した話し合いが行われました。三澤さんからも彭仁郁さんのトラウマ研究論文や夏珍編著の書籍《鐵盒裡的青春:台籍慰安婦的故事》(2005年、天下遠見出版)など、台湾における研究の中で盧満妹さんに関わる記述が出てくる箇所についてご教示いただき、大変参考になりました。

 第6回(4月12日)では、PJT第1弾の締め括りの場として一般参加を募って開催するWS(4月20日)の事前打ち合わせ会議を行いました。WS当日の進行を確認したあと、WSで音読する一人称証言の中で、地名と人名に関してどのような読み方をするのが良いのかということについて、この間のLINEグループでの話し合いを整理して最終確認を行い、結論として、地名に関しては時代性に鑑みて盧満妹さんが生きた当時の読み方を採用して日本語読みのルビを振ることにし、人名に関しては盧満妹さんをはじめ、その実の両親と養父母、また蔡桂英さんや蘇寅嬌さんなど、いずれも客家の出自の方々であることに鑑み、そのルーツを尊重するという意思表明として、もちろん客家語の発音をカタカナで表記することの限界はあるけれども、客家語での読み方の再現を試みてルビを振るという方針で合意を得ました。台湾人の参加者の方のお知り合いで、盧満妹さんと同じく海陸腔の客家語を話されるアナウンサーの方に人名の客家語読みの音声ファイルを送っていただき、それに基づきルビを振り当日のWSに臨みました。

(文責:山田泰史)

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